コーヒーの栽培には除草剤、殺虫剤、殺菌剤などの農薬が使われます。
農薬は高価なものですし、使いすぎは環境に影響を与えかねないことも認識されていますので、減農薬化は進んでいるとはいえますが、現状では「使うのが普通」です。
生豆の残留農薬検査を行っていると、時には農薬が検出されます。
ただし、検出量はほとんどの場合、食品衛生法の基準以下です。
農薬の残存が少ない理由は、現代の農薬が非常に高度に設計されていて効力を発揮したあとはすぐに分解してしまうこと、産地での農家への指導レベルが上がってきたことが考えられます。
とはいえ、時には食品衛生法の基準を上回るレベルでの残存もあります。
社内検査でみつかるケースもありますし、国の検査でも報告事例がいくつかあります。
でも、だからといって「コーヒーが危険な食品である」とはいえません。
なぜなら食品衛生法違反と健康害の発生とは、必ずしも同次元で語れるものではないからです。
健康害発生のリスクは科学的に見積もることが可能です。
計算すると、食品衛生法のほとんどの農薬の残留基準がかなり厳しく設定されていることが分かります。
つまり、健康害のリスクがまったくなくても違法になり得るのです。
大切なのは、基準値を上回る量の農薬が検出されたら、売る側はそれがどの程度のリスクに相当するか、正確に公表することではないでしょうか。
また、買う側にも法の基準値と実際のリスクとを正しく理解することが求められていると思います。
しかし、現状はそうではありません。
マスコミは違反事例をリスク評価なくセンセーショナルに書き立てます。
そして消費者はそれを鵜呑みにし、不安と不信でいっぱいになってしまいます。
とりわけ、コーヒーを扱うプロには正確な知識が必要です。
例えば、「コーヒーは果肉に覆われていて、直接農薬にさらされないから安心」だといわれることがあります。
これはまちがいです。
殺虫剤などは根から吸収された場合、脂質の多いところに蓄積されます。
コーヒーの木の場合は、それは種子、つまりコーヒー豆にほかなりません。
知らないがために過剰に反応してしまったり、意図せず消費者に嘘をついてしまったり。
とても残念な話です。
うまくつきあっていくためにはまず知るところから。
相手は人でも農薬でも同じです。