「完熟果実の種子から作った豆(完熟豆)は甘い」
これは消費国のみならず産地でも言われています。
完熟豆には糖分が多く含まれ、それがコーヒーの甘味になるという説ですが、これは誤解です。
生豆が含むショ糖の量は、たしかに果実の熟成が進むにつれて増加していきます。
ですから、生豆を摂取するのであればこの説は正しいといっても良いかもしれません。
しかし、焙煎した豆の場合には、これは不正解です。
なぜなら、生豆に含まれていたショ糖は、焙煎によってほとんどなくなってしまうからです。
ショ糖は焙煎するとコーヒーの色、香り、酸味のもととなります。
実際には果実の熟度が高くなると、焙煎時の色づきがよく、香りと酸味の豊かなコーヒーになるのです。
ショ糖が甘味のもとになっているとすれば甘いカラメル香としてであって、舌に感じる甘みとしてではありません。
では、コーヒーを飲んだ時に感じる甘みはどこから来るのでしょう?
これは私にとっても謎です。
甘みにつながりそうな物質はあるのですが、答えはまだ出そうにありません。
海外の文献をいろいろと調べてみました。
日本ではあまりコーヒーの研究はなされていませんが、世界では毎月数十本のコーヒーに関する論文が発表されています。
しかし、そこにも答えはありません。
海外の文献の山と向き合って感じるのは、「コーヒーは甘い」という感覚自体が、つい最近まで無かったのではないかということです。
苦み、酸味、香りなどに関する研究例はたくさんあるのですが、甘みに関しては見当たらないのです。
ひょっとするとこれは日本人特有の感覚だったのかもしれません。